このページの要点
- 教材・動画・講義内容などの権利の帰属を書き、受講者や認定講師に権利が移転しない旨と、法令にない独占権を作らない旨を書く。
- 個人の技能と、スクールの技術体系を分ける。仕事への活用は妨げず、体系を使って教える事業を制限する。
- 認定講師の教材の使用は、テキストの購入、動画ファイルを渡さない、独自教材の事前承諾などの条件を付けて認める。
- 生成AIへの入力は禁止しつつ、端末内の自己学習機能や教材を入れない事務作業は例外にする。
結論:守れるのは「表現」と「名称」、考え方は契約で線を引く
養成講座の教材は、事業者が何年もかけて作った財産です。けれども、法律で守れる範囲には限りがあります。登録商標のメソッドを教える認定講座のレビューで、事務所は「技法そのものは著作権では守れない。守れるのはテキスト、デザイン、商標、ブランドの名称」と整理しました。教材の文章や図表、動画は著作物として守れますが、その中に込められた指導の理論や教授法の考え方(アイデア)は、著作権では保護されない可能性があります。
だからこそ、受講者や認定講師との関係では、契約で「何をしてよいか」を決めておくことが重要になります。このページでは、権利の帰属の書き方、技術と技術体系の分け方、認定講師に教材を使わせる条件、生成AIへの入力の禁止、受講や認定が終わった後の教材の扱いを、事務所の書類をもとに解説します。講師が作った講義資料や講義の録画の権利は、立場が逆になるので講師業務委託契約書のページで扱います。
権利の帰属と「移転しない」旨を書く
依頼者原案で多いのが、教材の権利が誰にあるのかを書いていない例です。認定講師養成講座のレビューでは、受講者が講義動画を編集して販売したり、教材をもとに独自の認定講師制度を立ち上げたりした場合に、どの権利の侵害として請求するのかが曖昧になる、と指摘し、帰属の明記を強く勧めました。
改訂の例 教材の権利の帰属
権利の帰属
教材の無断使用を禁じる文はあるものの、教材・動画・講義内容などの権利が誰に帰属するのかは書かれていませんでした。
教材、動画、画像、講義資料、録画データ、講義内容、指導方法、講座構成、認定制度、ブランドコンセプト、ノウハウなどの権利が事業者又は正当な権利者に帰属し、受講者は明示されたもの以外の権利を取得しない、と定めました。あわせて、生成AIへの入力の禁止、教材を使って競合する講座・認定制度を作ることの禁止、自分のオリジナルと表示することの禁止を置いています。
ねらい請求の根拠を条文で特定できるようにし、禁止する行為を具体的に並べました。
著作権の帰属を書くときは、「著作権(著作権法27条及び28条の権利を含む)」と書くのが一般的です。27条は翻訳・翻案の権利、28条は二次的著作物(元の著作物をもとに作られた著作物)の利用に関する原著作者の権利です。著作権を譲渡する契約でこの二つを特に掲げていないと、譲渡した側に留保されたものと推定されるため(同法61条2項)、教材の作成を外部に頼んだときや、受講者の制作物の扱いを決めるときに意味を持ちます。受講者向けの規約では、受講者の課題の制作物の著作権は受講者に残し、事業者の運営・広報の目的での無償の利用を許諾してもらう(撤回は申出による)、とした例があります。
もう一つ書いておきたいのが、「法律にない独占権を作らない」という一文です。事務所の認定講師規約では、「本規約は、法律上保護される著作物・商標その他の権利を移転するものではなく、メソッドの理論又はアイデアそれ自体について、法令上存在しない排他的権利を創設するものではない」と書きました。ガイドラインにも同じ趣旨を置き、契約による利用の制限と、第三者に対する知的財産権の効力を区別しています。考え方そのものに独占権があるかのように書くと、契約の相手方ではない第三者にまで主張できると誤解して、根拠のない警告をしてしまう原因になるからです(名称・ロゴのガイドライン)。
「技術」と「技術体系」を分ける
技術職を養成するスクールでは、「卒業生の仕事そのものは妨げないが、体系の流用は止めたい」という要望がよく出ます。この二つを条文で分ける書き方として、技能職のスクールの規約に、次のような整理が見られます。
個人の技能と、スクールの技術体系
本人に帰属するもの
- 個人技能
- 受講者が身につけた一般的な技能、接遇の技能、知識、経験
- 扱い
- 卒業後も自由に使える
スクールに帰属するもの
- 技術体系等
- スクールが作り管理する技術の体系、指導の体系、教材、評価制度、時間や仕上がりの基準、教育の方法、運営の方法、マニュアルなど
- 扱い
- 承諾なく指導や営業に使うことを禁じる
確認の一文
- 趣旨
- 一般的な技術そのものの使用を制限するものではなく、スクール独自の教育体系・講義構成・教材構成・ブランドの価値の保護を目的とする
- 効果
- 制限が広すぎると読まれる余地を減らす
この発想は、ほかの案件の設計とも共通しています。技術系のスクールの受講契約では、学んだ技術を自分のサロンや顧客への施術に活用することは明示的に認め、教材やカリキュラムを使った第三者向けの教育事業だけを承諾制にしました(認定講師の活動範囲と競業)。上位講師の退任の合意書でも、一般向けのレッスンは自由とし、講師の養成だけを制限しています。「技術を使うこと」と「体系を教えること」を分けるのが、養成講座の教材を守るときの基本の形です。
営業のスキルを教えるスクールの見積りの案件でも、ノウハウの保護を「著作権(台本などは一部のみ)+契約+不正競争防止法」の三重で設計し、競業の制限は教材の利用の禁止に絞る方針を示しました。教材のうち著作物として守れる部分は著作権で、そうでない部分は契約で、秘密として管理している情報は不正競争防止法の営業秘密として、と重ねて守る考え方です。
認定講師に教材を使わせる条件
認定講師に教えることを許すなら、教材も使わせることになります。ここで決めておきたいのは、どの教材を、どの範囲で、どう生徒に渡してよいかです。事務所の認定講師規約では、次のように定めました。
- 認定講師は、自ら行う指導の教材として、当社のコンテンツを利用できます。ただし、教材ごとの著作権表示及び提供条件を遵守し、必要な範囲を超えて複製、改変、公開又は配布してはなりません。
- 認定講師は、生徒を指導するときは、その生徒の最初の授業の日までに、当社のテキスト(紙の書籍又は電子書籍)を1人1冊購入させます。体験レッスン及び単発のワークショップの生徒も対象とします。購入していない生徒に、テキストの全部又は一部を複製し、又は配布してはなりません。
- 動画・音声のファイル又は視聴用アカウントを生徒に引き渡し、アクセス情報を共有し、又は教材を生徒が自由に取得できるウェブサイトに掲載してはなりません。指導中の再生以外の利用は、当社の個別の書面による許諾を要します。
- 当社の教材を参考にした独自教材の制作は、単なる理論又はアイデアの利用を除き、当社の教材の表現、図表又は体系的な非公開情報を複製、翻案又は開示する場合には、事前に当社の承諾を得なければなりません。承諾は、指定された媒体、目的及び範囲に限ります。
テキストの購入の方法は、生徒が個人で事業者から買う方法を原則とし、認定講師がまとめて買って渡す方法も認めています。
2項の「生徒1人1冊」は、依頼者の回答で加えた項目です。テキストの完成前はPDFなどで代用し、その入手方法は別に案内し、テキスト代は完成時に確定すると書きました。購入の確認は、個人で買った場合は販売記録の購入者の氏名、まとめ買いの場合は買った冊数と、認定講師が報告する新しい生徒の人数との照合で行います。確認の方法まで決めておかないと、「全員買っています」という自己申告に頼るしかなくなります。
認定講師が自分の生徒を録画・録音する場面も、教材の条の近くで定めておきます。同じ規約では、認定講師は自分の生徒の個人情報を自分の責任で適法に管理し、生徒を録画・録音する場合は、目的、公開の有無、保存の範囲を事前に説明して必要な同意を得る、子どもについては保護者の同意も得る、としました。事業者の審査や宣伝のために生徒が映った動画を出す場合も、それに対応する同意を得てから出します。認定講師の教室で撮った動画が、本人の知らないうちに事業者の宣伝に使われる、という事態を防ぐためです。
4項は、認定講師の創意工夫を止めないための書き方です。考え方を参考に自分の言葉で教材を作るのは自由で、事業者の教材の表現・図表・非公開の体系を使う場合だけ承諾を求めます。全面的に「独自教材の制作を禁止する」と書くと、教えること自体が難しくなります。反対に、施術などの技術を提供する資格だけを与え、教えることは許さない制度では、営利・非営利を問わず、自ら講師となって教材を使うことを禁じる書き方も見られます。どちらにするかは、認定が「教える資格」なのか「施術する資格」なのかで決まります。
生成AIへの入力の禁止と、その例外
教材を生成AIに読み込ませて要約させたり、似た教材を作らせたりする行為は、ここ数年で最も問合せの増えた論点です。技術系のスクールの依頼者からは、「AI学習利用の禁止を希望するか、とはどういうことでしょうか」と聞かれたことがあります。依頼者にとっても説明の要る論点です。
- 受講者向けの規約:コンテンツを生成AIその他の機械学習モデルの学習・入力・解析に使うことを禁止する。ただし、受講者自身の学習のために、端末の中だけで動き、外部に送信せず、学習に使われない機能を使う場合は除く。違反による生成物の削除・公開停止と、入力の履歴や学習データを含む複製物の削除、モデルでの利用の停止を求められる、とした。
- 認定講師規約:コンテンツを生成AIなどに入力し、アップロードし、学習用に提供し、類似教材の生成に使うことを禁止する。ただし、認定講師独自の情報だけを使い、事業者の教材・秘密情報・生徒の個人情報を入れない一般的な事務作業は対象外とした。失効・停止・終了の後も同じ禁止が続く(法令上許される利用を除く)。
- 認定講師養成講座の受講契約:レビューで、教材のAIへの入力、動画のAIの学習への利用、AIで類似コンテンツを作る行為の禁止を勧め、修正版の知的財産権の条に加えた。
例外を書いたのは、禁止の範囲を広げすぎないためです。生成AIをメールの下書きや日程の調整に使うことまで禁じると、認定講師は守れない約束をすることになります。禁止したいのは「事業者の教材や秘密情報、生徒の個人情報を外部のAIに入れること」と「AIで似た教材を作ること」であり、それ以外の使い方は対象外である、と書いておくのが現実的です。違約金の対象に生成AIへの入力を含める場合も、一般的な事務作業を除くことを同じ条で明記しました(違約金と関係法人)。
受講・認定の終了後の教材の扱い
受講が終わった人、認定が終わった人の手元に、教材はどこまで残ってよいのでしょうか。「すべて返還・削除」と書くのは簡単ですが、ダウンロードしたPDFを本当に全部消したかどうかは確かめようがなく、守れない約束になりがちです。
改訂の例 終了後の教材の扱い(受講生と結ぶ業務提携型の契約)
終了後の教材
契約の終了・解除・修了のときは、提供された一切の情報を返還・削除・廃棄し、終了後は保存・閲覧・利用もしてはならない、としていました。
事業者は会員サイトや共有フォルダなどのアクセス権限を削除・停止できるとしたうえで、ダウンロード形式で提供した教材・教案・PDF・テンプレートは、受講者が自己利用の目的の範囲内で継続して保有できる(第三者との共有、転載、講座での利用、商用利用などは不可)としました。秘密情報、未公開のコンテンツ、配信データ、共有URLは、終了後も保存・複製などをしてはならない、としています。
ねらい手元に残る物と、残さない物を分けました。自分の学びのために持ち続けることは認め、外に出すことと、事業者が管理する情報を持ち出すことを禁じる形です。
認定講師規約では、活動のために貸与した教材や、返還を条件に提供した教材と秘密資料は、事業者の指示で返還又は削除するとし、購入済みの教材を私的な学習のために持ち続けてよいかどうかは、購入時の条件による、としました。法令上保存が必要な記録は、外部に使わず公開もしないことを条件に、必要な期間保存できます。「貸したもの」と「買ったもの」で扱いを変えるのが、終了後の教材の整理の基本です。
終了後も続く義務は、存続の条でまとめて指定しておきます。同じ規約では、権利を移転しない旨の定め、終了後の教材の複製・配布・販売と生成AIへの入力の禁止、個人情報と録画、秘密保持、終了後の措置、年会費の返金、違約金、事業者の責任、通知の条などを、終了後もその性質上必要な範囲で効力を持つものとして列挙し、「終了後に新たな指導又は表示の権限を生じさせるものではない」と書き添えました。存続の条がないと、認定が終わった途端に教材の禁止も終わったと主張される余地が生まれます。
受講中の撮影やSNSへの投稿についても、依頼者の実際の運用を聞いてから決めます。技術系のスクールの依頼者は、「実技は全て復習用に動画を撮ってよい。ただし外部への流出は控えてほしい」「テキストの内容をそのまま載せるのは控えてほしいが、雰囲気が伝わる投稿はよい」という考えでした。受講契約では、実技の撮影・録画の条と、口コミ・実績・肖像の利用の条に分けて整理しています。全面禁止にするより、許す範囲を先に書いたほうが、受講者は守りやすくなります。
秘密情報と、第三者の素材
教材の中には、公開している内容と、受講者や認定講師にだけ渡している非公開の内容があります。試験問題、評価の基準、上位コースの教材、生徒の情報、事業者の業務の情報は、著作物かどうかとは別に、秘密情報として扱いを決めておきます。事務所の認定講師規約では、秘密である旨を示された情報、又はその性質から秘密と合理的に認識できる非公開の教材・試験問題・生徒の情報・事業者の業務情報を、許された目的以外に使ったり第三者に開示したりしてはならない、としました。すでに公知の情報、もともと適法に持っていた情報、守秘義務なく適法に取得した情報、自分で独自に開発した情報は除き、法令や裁判所などから開示を求められた場合は、法令で禁じられない限り事前に事業者に通知したうえで、必要な範囲で開示できる、としています。
秘密情報の定義を「事業者が開示した一切の情報」のように広くとりすぎると、認定講師が自分で身につけた一般的な知識まで縛っているように読めます。「秘密である旨を示したもの」と「性質上秘密と分かる非公開のもの」に限っておけば、何を守ればよいかが本人にも分かります。教材の改訂版を配ったときに、旧版をどう扱うか(引き続き使ってよいか、差し替えるか)も、運用の案内で決めておくと混乱が起きません。
もう一つ、見落とされやすいのが第三者の素材です。教材に使っている写真、図版、音源、他社のロゴなどは、事業者が権利を持っていないことがあります。事務所のガイドラインでは、教材、写真、映像、第三者のロゴを使う場合は、その権利者の許諾その他の適法な根拠を別に確認する、事業者がガイドライン上の承諾をしても第三者の権利処理を代わりに行うものではない、と明記しました。試験の課題を事業者が権利を持つ素材に限ったのも、合格者の動画を宣伝に使うときに、第三者の権利の処理が必要にならないようにするためです。認定講師が自分の教室のチラシに他人の写真を使った、という場面で、「事業者のロゴの使用を承諾したのだから写真も大丈夫」と誤解されないよう、条文で切り分けておきます。
ヒヤリングの問いと理由 教材と知的財産
認定講師が指導で使ってよい教材は、事業者の教材をそのまま使う、参考にして自作する、認定講師向けの専用教材を使う、のどれですか。複製・配布・二次利用の可否と、教材の費用を教えてください。
教材の使用の条の骨組みが、この答えで決まります。
認定講師が生徒の個人情報や、指導の録画・録音をどう扱うか、求めたいルールはありますか。
認定講師は自分の生徒の個人情報を自分の責任で管理し、録画するなら目的・公開の有無・保存の範囲を事前に説明して同意を得る、と書くかを決めます。
ロゴやマークの著作権は事業者に帰属していますか。デザイナーに依頼した場合、契約書はありますか。
ロゴを認定講師に使わせる前提として、事業者が権利を持っていることを確かめます。
受講者に、実技の撮影やSNSへの投稿をどこまで認めますか。
全面禁止ではなく、許す範囲を先に書くためです。
よくあるご質問
メソッドの「考え方」をまねされたら、止められますか?
考え方(アイデア)そのものは著作権では保護されない可能性があります。教材の文章・図表・動画は著作物として守れ、名称は商標や不正競争防止法で守れます。受講者や認定講師との関係では、体系的な指導や教材の利用を契約で制限することで線を引きます。
教材の権利の帰属は、規約に書く必要がありますか?
書くことを強くお勧めします。帰属が書かれていないと、受講者が教材を販売したり、教材をもとに別の制度を作ったりしたときに、どの権利に基づいて止めるのかが曖昧になります。著作権については、翻案権など(著作権法27条・28条の権利)を含むと明記します。
認定講師の生徒に、テキストを必ず買ってもらうことはできますか?
認定講師規約に定めておけば可能です。事務所が作成した規約では、最初の授業の日までに生徒1人1冊購入させ、購入していない生徒に複製・配布しないこと、購入の確認は販売記録やまとめ買いの冊数と新しい生徒の人数の照合で行うことを定めました。
教材を生成AIに入力することを禁止できますか?
受講者向けの規約や認定講師規約で禁止できます。ただし、端末の中だけで完結する自己学習の機能や、教材や個人情報を入れない一般的な事務作業まで禁止すると守れない約束になるため、例外を明記することをお勧めしています。
修了した人に、PDF教材を返してもらうべきですか?
ダウンロード済みの複製物の回収は確かめようがないため、自己利用の範囲で保有を認め、第三者との共有や商用利用を禁止する形が現実的です。会員サイトのアクセス権限は停止し、秘密情報や未公開のコンテンツは終了後も保存しないよう定めます。
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