このページの要点
- 申込みを法人・団体に限り、「事業のため」に申し込むことを表明してもらう。
- 法人向けの章では「読み替え」ではなく、適用する条を列挙する。参加者の違反は申込法人の行為とみなし、違約金は1契約1回。
- 事業者の事由・不可抗力のときは、誰が手配した費用かで負担を分け、故意・重過失を除き賠償しないと明示する。
- 最少催行は、判断の時期・通知・全額返金・事前の表示をそろえる。講師派遣では取引先が講師に指揮命令をしない。
結論:法人向けは「個人向けの規約の流用」ではなく、法人用の章を作る
個人向けの養成講座を運営している事業者が、企業や団体から「社員向けにも講座をしてほしい」と頼まれることがあります。研修会社が顧客企業の研修を受け、講師に登壇を頼むこともあります。こうした法人向けの講座や企業研修の契約で起きやすいのが、個人向けの規約をそのまま流用してしまうことです。個人向けの規約は、受講者本人が契約の当事者で、消費者契約法や特定商取引法の規律を前提にしています。法人向けでは、契約するのは会社で、実際に参加するのは社員です。会場や旅費の手配も、個人向けとは違います。
事務所の書類では、法人向けの集中講座を始める依頼者の講座利用規約に法人向けの章を設け、個人向けの条文のうち法人にも適用する条を列挙する方式にしました。このページでは、法人申込みの限定、契約の当事者と参加者の位置づけ、会場・旅費・オンライン、日程変更とキャンセル、事業者の都合と不可抗力の費用負担、最少催行人数、講師派遣と研修講師・紹介パートナーの契約を解説します。研修講師の個別の契約条件は講師業務委託契約書のページで詳しく扱います。
法人申込みの限定と「事業のため」の表明
法人向けの集中講座では、申込みを法人その他の団体に限り、個人からは(事業者であっても)受け付けない、としました。そのうえで、申込法人に「事業のために申し込むこと」を表明・保証してもらい、これに反すれば解除できるようにしています。
この書き方には理由があります。法人だけが相手なら、消費者契約法の「消費者」(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合を除く個人)に当たらず(同法2条1項)、同法8条〜10条は及びません。一方、特定商取引法の適用除外(同法26条1項1号)は「営業のために若しくは営業として」締結する契約が要件で、非営利の団体が申し込む場合に当たるかどうかは不確実です。そこで、表明の文言を「営業のため」ではなく「事業のため」とし、個人事業主は個人として申込みの対象から外しました。法人向けの2日間のワークショップの参加規約のレビューでも、申込みに会社名を必須とする企業間の取引であることから、消費者契約法と特定商取引法の適用は原則としてなく、定型約款(民法548条の2)としての評価が中心になる、と整理しています。
契約の当事者と参加者:「読み替え」ではなく「適用する条の列挙」
法人向けの契約の当事者は申込法人で、参加者(社員)は申込法人が指定します。参加者には、記録・知的財産・禁止事項・指導の制限など、受講のルールを守ってもらう必要があります。同じ規約では、申込法人は役員・従業員にも禁止事項を守らせ、参加者から規約を守ることの同意(電磁的な方法を含む)を得たうえで参加させ、求めに応じてその記録を出す、としました。参加者は、規約でいう「第三者」には含まれず、受講の目的で教材を使えます。
改訂の例 法人向けの章の作り方
個人向けの条文との関係
法人向けの章で「受講者を申込法人と読み替える」という除外の方式をとっていました。
法人向けに適用する条を列挙する方式に作り直しました。責任の上限の基準額を「集中講座の受講料の総額」に読み替え、専属的な合意管轄を別に定め、見積書などに別段の定めがあればそれを優先する、としています。
ねらい読み替えの方式は、参加者が規約上の「第三者」に当たってしまう、条文どうしが循環する、特定商取引法の表記への参照が意味を失う、定義と衝突する、といった問題を生みやすい方式です。どの条が法人に適用されるのかを一覧で示す方が、読む人にも確実です。
個別の条件(方式・日程・場所・人数・担当講師・受講料と団体割引・支払)は見積書などで定め、見積書の承諾の通知で契約が成立する、としました。担当講師は最上位の区分の講師から指定し、急病などのときは同じ区分のほかの講師に変更できます(認定講師の活動範囲)。
参加者の違反の扱いも、個人向けとは変えます。参加者や申込法人の関係者の禁止行為は申込法人がしたものとみなし、法人向けの違約金は、一つの集中講座の契約につき1回、申込法人が支払う、としました。参加者個人には個人向けの違約金を請求しません(法令に基づく請求は妨げず、法人が払った額を控除します)。参加者一人ひとりに違約金を請求できる形にすると、社員を参加させること自体を会社がためらうからです(違約金と関係法人)。
会場・旅費・日程変更・キャンセル料
法人向けの講座では、対面の会場は申込法人が用意し、費用も負担するのが基本です(事業者が手配するなら実費を請求)。設備と安全は申込法人の責任とし、講師の交通費・宿泊費は申込法人の負担で、手配の前に見積りを示して承諾を得て、実施の後に精算する(請求書の発行から30日)としました。オンラインで行う場合は、申込法人が参加者の通信環境や機器を用意できるようにし、セッションの記録とアーカイブの提供について参加者に説明して同意を得る、としています。
| 場面 | 扱い |
|---|---|
| 日程変更 | 実施日の30日前の23時59分(日本時間)までに所定のメールアドレスへ通知すれば、6か月以内の日に1回無料で変更できる。通知の日時は受信サーバに記録された日時とする。事業者が日を提示し、承諾で成立する |
| 期限後の変更・2回目以降の変更 | 通知の日時を基準にキャンセルとして扱う |
| キャンセル料(損害賠償額の予定) | 30日前の23時59分まで20%、その翌日から14日前の23時59分まで50%、14日前の翌日以後又は開始後100%。これに加えて、事業者が手配済みの取り消せない交通費・宿泊費・会場費の実費 |
| 通知なく全員が不参加 | 実施日のキャンセルとして扱う |
| 人数減・一部の不参加 | 減った人数分に準用する。7日前までの参加者の入替えは減員に当たらない |
通知の時刻を「23時59分(日本時間)」と書き、受信サーバの記録を基準にしたのは、期限ぎりぎりの通知がどちらの区分に入るかで争いにならないようにするためです。海外の拠点からの申込みや、時差のある担当者がいる場合には特に効いてきます。
事業者の都合・不可抗力のときの費用負担
依頼者から、こんな相談を受けました。「事業者の責めで振替ができないときは、受講料を返すだけにして、申込法人が支出した交通費・宿泊費・会場費は負担しないことにしたい」。理由は、講演・研修の業界の慣行であること、会場は申込法人が手配していて事業者が管理できないこと、最上位の講師が少ないこと、でした。
事務所の助言は、法人間の取引なら有効にできる(消費者契約法は適用されず、民法415条の損害賠償を契約で制限できる)、ただし「負担しない」とだけ書くと、責任を制限する条項の枠の中で賠償の請求が残るので、「事業者の故意又は重大な過失による場合を除き賠償しない」と明示する、というものでした。あわせて、事業者が自分で手配したもの(講師の旅費、事業者が手配した会場)の取消しの費用は、事業者が負担する形を勧めています。
- 当社の事由により実施できないときは、申込法人と協議のうえ6か月以内の日に振り替えます。振替ができないときは、実施していない部分の受講料を返金します(全く実施できなかったときは全額)。
- 前項の場合、当社が手配した講師の旅費(既に支出したものを含みます。)及び当社が手配した会場の取消しのできない費用は、当社が負担し、申込法人に請求しません(受領済みのときは返金します)。
- 申込法人が手配し又は支出した費用(会場費、参加者の旅費、申込法人が手配した講師の旅費)は、振替の場合を含め申込法人の負担とし、当社は、当社の故意又は重大な過失による場合を除き、これを賠償しません。
- 不可抗力により実施できないときは、協議のうえ振り替え、振替ができないときは実施していない部分の受講料を返金します。費用は、それぞれ手配した側の負担とします。
返金額と事業者が負担する費用は、責任の上限額に算入するとし、返金・支払は請求書又は返金の通知から30日以内としました。
事業者が申込法人の都合で解除する場合の受講料の扱いは、規約の中の1か所にまとめました。開始前の解除は解除の通知の日時を通知の日時とみなして段階の料率を適用し、開始後は返金なし・未払い分の支払、という形です。同じ場面の扱いが複数の条に散らばっていると、どの条が優先するのかで争いになります。
最少催行人数と、既存の申込者への規約変更
企業向けに2日間のワークショップを開く事業者の参加規約のレビューでは、最少の開催人数(参加する会社の数)に届かないときに中止・振替をしたい、旅費・宿泊費のキャンセル料は負担しない、という依頼者の要望を受けました。依頼者の回答は、判断は初日の14日前、通知はメール、振替ができなければ参加費は全額返金、というものでした。レビューでは、①14日前までに判断して通知すること、②参加費を全額返金すること、③申込みのフォームに事前に表示すること、の三つで、この仕組みを有効に機能させられる、と結論づけました。
- 最少開催の数え方(契約が成立した会社か、入金済みの会社か)、「14日前」の数え方、判断と通知の時点、振替か返金かを選ぶ方法と回答の期限、回答がないときの扱い、振替先が満席や再度の中止になったときの扱い、返金の期限と方法を定める。
- 事業者の都合による振替には、変更の手数料をかけない。
- 講師の急病などは、「事業者の責めに帰することができない事由」に限ると明確にする。
依頼者からは、旅費を負担しない条に「当社が開催を中止した場合を除く」を書き足したい、という追加の要望もありました。事務所はこれを採用できないと回答しました。既存の条文は参加費と交通費・宿泊費を一つの文で扱っていたため、そこに書き足すと、中止のときは旅費も補償すると主張される余地が生じ、旅費を負担しないという定めと衝突するうえ、不可抗力による中止まで含まれてしまうからです。修正の方向として、旅費を負担しない場面を人数不足と不可抗力による中止に限定し、故意・重過失を除く、と書き直すことを示しました。
規約の変更の条にも問題がありました。「あらかじめ通知することなく、いつでも変更できる」という書き方は、定型約款の変更の要件と手続(民法548条の4)を満たしません。すでに申し込んだ会社には、個別に同意をとる(推奨)か、同条の手続による必要があります。依頼者は、既存の申込者には旧規約のまま適用し、個別の同意はとらないことを選びました。このほか、故意・重過失まで免責する文言、違約金の対象が「引用」まで及ぶ広すぎる定め、動画のプロモーション利用の同意の不足、特定商取引法の表記の「キャンセルには対応しておりません」と新しい返金の規定の食い違いも指摘し、修正版では教材と教材等を分けて違約金の対象を絞り、秘密保持と分離可能性の条を新設しています。
ヒヤリングの問いと理由 法人向けの講座・企業研修
申込みは法人・団体に限りますか。個人事業主や、非営利の団体からの申込みはありますか。
法人に限るか、「事業のため」の表明をとるかを決めます。
個別の条件(日程・場所・人数・担当講師・団体割引・支払)は、見積書で決めていますか。
見積書の承諾で契約が成立する形にし、見積書に別段の定めがあれば優先する、と書くためです。
会場は誰が手配し、講師の旅費は誰が負担しますか。オンラインの場合、録画やアーカイブの提供はありますか。
費用の負担と、参加者への説明・同意の取り方を決めます。
日程変更やキャンセルの期限、最少の開催人数、中止の判断の時期を教えてください。
キャンセル料の区分と、中止のときの返金・振替の手順を決めます。
支払は1回払いですか、分割払いですか。
企業向けのワークショップの案件では、1回払いのみとの回答を受けて、分割払いの条を削除しました。
すでに申し込んでいる会社に、新しい規約を適用しますか。
個別の同意をとるか、定型約款の変更の手続によるか、旧規約のままにするかを選びます。
規約を申込みのフォームに貼り付けて使う場合は、フォームに貼るための文面も用意します。企業向けのワークショップの案件では、修正版の規約とあわせて、フォームに貼り付けるテキストを納品しました。規約のファイルとフォームの文面が別々に更新されると、どちらが最新なのか分からなくなるため、版を一つにそろえて管理します。特定商取引法の表記など、申込みの前に見せている別の文書に古い記載(「キャンセルには対応しておりません」など)が残っていないかも、規約を改めるたびに確かめます。録画や撮影の扱いは、受講者向けの教材の規律とそろえておきます(教材の使わせ方と生成AI)。
講師派遣・研修講師・紹介パートナーの契約
事業者が取引先の店舗などに講師を派遣して講座を行う契約もあります。講師派遣の業務委託契約書に見られる構成として、基本契約と個別契約(発注書・提案書・見積書・メールを含むが、確定させるのは合意した範囲)に分け、個別契約が基本契約と抵触すれば個別契約を優先する、というものがあります。この形の契約では、業務を準委任(仕事の完成ではなく、事務の処理そのものを引き受ける契約。民法656条)とし、講師は独立して業務を行い、取引先は講師に指揮命令をしない、講師の選定・配置・管理・研修・品質管理は派遣する側の責任、と書くのが要点です。「講師派遣」という言葉を使っていても、取引先が講師に直接指示を出す形にすると、業務の委託とは別の関係と見られるおそれがあるからです。
講師派遣の契約で分けておくこと
安全管理
- 取引先
- 施設・設備・備品と、参加者の誘導・監督。参加者への事前の説明・同意の取得と記録の保管
- 派遣する側
- 指導の内容についての安全への配慮
事故の責任
- 施設の瑕疵
- 取引先の責任
- 講師の故意・重過失
- 派遣する側の責任。その他は協議
知的財産
- 帰属
- 教材・講座内容・ノウハウ・標章は派遣する側に帰属
- 禁止
- 取引先による複製・録音録画・SNSへの掲載・類似サービスへの利用
保険は、派遣する側が賠償責任保険への加入に努め、取引先が施設の賠償責任保険に加入する、という分担が見られます。
同じ形の契約では、参加者からの苦情は取引先が一次の窓口になること、派遣する側の責任は通常かつ直接の損害に限り、上限はその個別契約の報酬額とする(故意・重過失を除く)こと、キャンセル料はどちらの側にも発生しないとし、派遣する側に原因があるときは代わりの講師の手配に努めること、といった定めも見られます。店舗での体験講座のように、取引先が自分の顧客を集めて講座を開く形では、参加者との窓口と安全の管理を取引先に寄せ、講座の中身と講師の質を派遣する側が負う、という分担が実態に合いやすくなります。録音・録画・撮影やSNSへの掲載を禁じる条は、講座の内容が取引先の宣伝に無断で使われないためのものです。
研修会社とパートナー講師の契約では、講師の契約の一般的な論点(個別の依頼の明示、支払期日、顧客の都合のキャンセル、準備の業務の報酬、成果物の権利、直接取引の禁止、継続案件の解除の予告)に加えて、研修会社が顧客企業との契約で負う秘密保持・個人情報・知的財産・情報セキュリティの義務を、通知を受けた範囲で講師も守ること、講師は顧客と報酬・範囲・納期などを約束せず代理権もないこと、再委託や代行を禁じ代わりの講師は研修会社が選ぶこと、研修の成果(理解度・行動の変化・業績の向上)は保証しないこと、を定めました。研修の成果物の権利は、研修会社の依頼と費用で新しく作った成果物の著作権(27条・28条の権利を含む)は報酬の支払の完了で研修会社に移り、講師が以前から持つ教材とノウハウは講師に残して、業務の実施・確認・納品・社内確認・記録の保存に必要な範囲で無償・非独占で利用を許諾する、としています。
研修の紹介を外部に頼む契約もあります。人材育成の研修の紹介パートナーの契約では、成約したときの報酬を、パートナーが成約まで担当した場合と、事業者が成約まで担当した場合の2段階の割合にし、紹介先からの入金がなければ払わない、紹介先が対象の研修以外を追加で契約しても報酬はない、としました。修正では、対象の研修の範囲を具体的に特定しています。業務委託の前に無償の事前研修を受けてもらう場合は、参加の誓約書で、調査や競業の目的での参加の禁止、研修で知った情報の秘密保持、撮影・録音・持出しの禁止、顧客への勧誘の禁止を約束してもらい、業務委託の契約を結ばなくても義務は残る、と書いた例もあります。
よくあるご質問
社員研修として申し込んだ会社の社員が、教材を外に流したらどうなりますか?
法人向けの規約で、申込法人に参加者から規約を守る同意を得させ、参加者の禁止行為を申込法人の行為とみなしておけば、申込法人に責任を求められます。事務所が作成した規約では、法人向けの違約金を1つの講座の契約につき1回、申込法人が支払うとし、参加者個人には請求しないとしました。
講師が急病で研修ができません。会場費は誰が負担しますか?
規約の定めによります。事務所が作成した法人向けの章では、事業者の事由のときは振替か未実施分の返金とし、事業者が手配した講師の旅費や会場の取消し費用は事業者が負担し、申込法人が手配した会場費などは故意・重過失の場合を除き賠償しない、と分けました。
最少催行人数に届かず中止したいときは、どう書けばよいですか?
判断の時期(例えば14日前)と通知の方法、参加費の全額返金、申込みのフォームでの事前の表示をそろえることで、有効に機能させやすくなります。人数の数え方や、振替と返金の選び方も決めておきます。
法人向けの講座にも、消費者契約法や特定商取引法がかかりますか?
法人だけが相手なら消費者契約法の消費者には当たりません。特定商取引法の適用除外は「営業のため」の契約が要件で、非営利の団体では不確実なため、申込法人に「事業のために申し込む」ことを表明してもらう方法があります。
取引先の店舗で講座をする契約で、気をつけることは?
業務を準委任とし、取引先は講師に指揮命令をしないこと、講師の管理は派遣する側の責任であることを書きます。施設と参加者の安全管理は取引先、指導の内容の安全配慮は派遣する側、と分担し、教材の権利と録画・撮影の禁止も定めます。
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本ページは一般的な情報提供です。事務所の改訂例・ご相談の事例として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきた資格スクール・養成講座の受講契約書、講座利用規約、認定講師規約、商標・ブランドガイドライン、協会の会員規約、上位講師の退任合意書、講師業務委託契約書、法人向け講座の規約などを、個別の事業者が特定できない形に整理したものです。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月16日)。参考: e-Gov法令検索 / 特定商取引法ガイド(消費者庁) / フリーランス法特設サイト(公正取引委員会)